
これはおとぎ話なのではないかと,思わず錯覚してしまうほど,今季のイップスは野球に対して前向きだった。守備強化練習にはほぼ参加,内野手としてのレギュラー争いには積極的,試合前のキャッチボールでは,わざわざJ氏を座らせて,ピッチャーができるかのごとくストレート中心の投球術を監督にアピール,さらには超軽量かつ高性能バットを購入し,金の力でスイングスピードを上げるなど,今季のイップスは何かが違った。いやイップスではなかった。イップスの勇姿をベンチで見守る監督は「今季のフジはイップスと呼んじゃいけないね。もうイップス卒業。次のあだ名は忍者かエスパーっが妥当じゃない?うふふふふ」とかなりご機嫌な様子。
しかし,そんな絵空事もつかの間,イップスの身に事件が起きた。5月28日,イップスに転勤の指令がおり,しかもその指令は容赦なく,6月11日には虎ノ門で勤務すれという。凄まじい時勢の荒波だ。そんなイップスであるが,時代の潮流にめげることなく,おどけた口調でトンハム民にメッセージを残してくれた。
「私が購入した神バットで,一度もヒットを打っていませんが,札幌に戻ってくる事はありませんので,屯田ハム退団です。これからは花の都大東京,いや西新宿の親父として,日本という沈没船をなおしてまいります。不等な砂利共に蹴りを入れ,凛々と泣きながら弾けてトンでまいります。のっぺりとした都会の空にたくさんのしゃぼん玉を打ち上げてまいります。キャプテンシップにのっとり,私が舵をとってまいります。泣いて泣いてチンピラになりたいです…皆さんさようなら。」
イップスの退団。それはトンハム民にとっては悲しすぎる出来事だ。ファーストミット,キャッチャーミット,ミズノの軽いバット,ユニフォーム,アンダーシャツに使い古されたソックスまで,イップスはたくさんの武器を快くトンハムに寄付してくれた。颯爽と彼の地へ旅立った英雄に心から感謝したい。
(文責:N)